敬語・言葉

「鑑みる」の意味と正しい使い方、誤った使用例など

本と虫眼鏡

「これらの状況を鑑みて」などと使われる「鑑みる」という言葉ですが、実は誤った使い方をしている例が非常に多く見られる言葉です。

言葉は時代とともに変化していくものですから、やがて誤用も正当な用法として認められる可能性はありますが、ビジネスで用いるには正しい使い方を知っておくことも重要です。

そこで、「鑑みる」の意味とよくある誤用、同義語などについて見ていきましょう。

意味と間違いやすい使い方

「鑑みる」の読み方は「かんがみる」です。

音の響きから「考える」と同じ意味で用いられることがありますが、この言葉には「手本や先例に照らし合わせて考える」という意味があります。

そもそも「鑑」という字には「鏡」「規範」「手本」などの意味があり、動詞にした時もそれを踏まえて、手本などと比較したり参考にしたりして考えるという意味を持つようになりました。

したがって、「考える」とまったく同じように使える言葉ではなく、正しくは、手本、先例、規範など比較対象がある時だけしか使えないということです。

このポイントを押さえると、冒頭で紹介した「これらの状況を鑑みて」という言い方は間違っていることがわかるでしょう。

これでは「これらの状況を考えて」というのと何も変わりません。正しくは、「〜を鑑みる」ではなく「〜に鑑みる」です。「〜に照らし合わせて考える」と言い換えるとわかりやすいです。

「これらの状況に照らし合わせて考える」とは言えますが、「これらの状況を照らし合わせて考える」とすると助詞の使い方が間違っていることがわかります。

ですので、「鑑みる」の使い方に迷った時は、「〜に照らし合わせて考える」と言い換えておかしくないか確かめてください。

「昨今の経済状況に鑑みると、当社の今後の経営戦略は…」「ここまでの進捗状況に鑑みて、当初の予定を変更せざるを得ない」などが正しい使い方です。

「考慮する」との違い

「考慮する」という意味で「鑑みる」と使う人もいますが、これも上で見てきたように正確には意味合いが異なることがおわかりでしょう。

「考慮」とは「いろんな要素を含めて考え合わせること」という意味ですから、単に「考える」よりも深い意味が込められています。

ただ、「鑑みる」のように何か具体的な実例に照らし合わせて考えるというニュアンスはないため、本来なら両者を自由に入れ替えることはできません。

広い意味では同義語ですが、微妙なニュアンスの違いがあることに注意してください。実際に例を挙げて使い分けを見てみましょう。

「昨年度の実績に鑑みて、今年度は活動の幅を縮小せざるを得ない」と「わが社を取り巻く事情を考慮すると、思い切った改革が必要だ」の二つの文章を考えてみます。

前者では、「昨年度の実績」という実例に照らして考えた結果、活動の幅を縮小するという結論に至っています。

一方、後者では、「わが社の事情」という考えに入れる要素があるものの、それは先例などの比較対象ではありません。

ただし、「昨年度の実績を考慮に入れると…」などの使い方は可能です。

ですので、口語ではそこまで厳密に区別してしなくてもよいのですが、「鑑みる」を使う時は直前の助詞を「を」ではなく「に」にすることだけは注意しておきましょう。

その他の同義語

「何かを考えの要素に含めて思いを巡らしたり判断したりする」という意味の言葉には、ほかにも「顧みる」「勘案する」「踏まえる」「念頭に置く」などがあります。

ただ、「先例に照らし合わせて結論を導く」というニュアンスを伝えるのなら、「鑑みる」がいちばんぴったりくる言葉でしょう。

まとめ

詳しく見てきた結果、これまでなんとなく使っていた言葉に、実は厳密な意味の区別があることがわかりました。

日常会話ではあまり気にされない違いですが、少なくとも正しい助詞の使い方は覚えておきましょう。

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